家禽コレラ Fowl Cholera

家禽コレラの概要 Fowl Cholera


新緑の葉

 パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)の感染によってほとんどすべての鳥類に発生する伝染病で、通常、急性敗血症の経過をとります。
 発症率および死亡率は高いですが、慢性経過や比較的穏やかな感染もしばしばみられます。
 
 わが国では法定伝染病に指定されているが、その場合に対象となるのは鶏、アヒル、七面鳥およびウズラが本菌に感染し、それらの70%以上が急性敗血症で死亡する症例とされています。

 
 本菌はグラム陰性、非運動性、芽胞非形成の短桿菌で、感染宿主体内の菌および新鮮分離菌は明瞭な両端染色性を示す。
 寒天培地上に発育した菌は、直径1~4mmの円形で半透明の集落を形成し、非溶血性である。

 鳥類由来株の莢膜抗原はA型が主であり、急性の家禽コレラを起こすが、まれにB、Dあるいは、F型の菌も分離される。
 菌体抗原はHeddlestonの1、3および4型、波岡のO5、O8、およびO9型が主体である。
 本病は、18世紀後半にヨーロッパで流行して以来、アジア、アフリカ、中近東及び欧米諸国で今なお散発的に、あるいは集団的に発生している。

 わが国では、1954年以降約20年間は発生報告がなかったが、1976年にタイから輸入されたキュウカンチョウに集団発生が起こった。
 また、1980年以降は、毎年鶏、キジ、ヤマドリ、ガチョウ、カモ、七面鳥、ウなどでP.multocidaによる感染症が発生しているが、法的借地の対象となった例はまだない。

 本病の発生は、年間を通じてみられるが、比較的季節の変わり目に多い。
 野鳥、七面鳥や水禽類は鶏よりも、ブロイラーの卵用鶏よりも、成鳥はひなよりも本菌に対する感受性が高い。
 本病の発生と経過には気候の変化、栄養、外傷や興奮などの環境ストレス因子が影響を及ぼす。

 自然感染における死亡率は七面鳥で17~68%、鶏では。0~20%、アヒルではこれらの中間である。
 本菌の体内への侵入経路は経口ではなく、通常、呼吸器粘膜であるが、他の粘膜や皮膚の創傷からの場合もある。
 いったん侵入した菌は血流を介して全身に広がる。

 感染源は、不明な場合が多い。
 感染した家禽と接触したことがある野鳥は他の鳥類への感染源となる。
 介卵感染は起こらない。

 保菌している家畜や野性動物も感染を媒介する。
 群の中での伝播は、病鳥からの排菌によって汚染された餌、飲水、木枠などの環境を介して起こる。
 水禽類では池や沼が汚染されるので、しばしば大発生となる。

症状と病変

 急性型では死亡の数時間前にだけしか症状が認められないことがよくある。
 通常、沈うつ、発熱、食欲廃絶、羽毛の逆立、口からの粘液漏出、下痢、呼吸早迫などである。
 死亡直後にチアノーゼが肉冠や肉垂に発現する。

 下痢便は初めは水様性で白いが、後に緑色で粘液を混じるようになる。
 通常、2~3日の経過で死亡する。
 初期の急性敗血性から耐過した鳥はその後削痩と脱水により死亡するか、慢性型に移行あるいは回復する。

 甚急性に死亡した鳥では肉眼的に著変は認められない。
 急性経過で死亡した例では、肝臓、脾臓、肺や十二指腸とともに、皮下織や心冠部脂肪織に点状出血や出血斑が広範に認められる。
 ただし、鶏における出血性変化はその他の鳥類に比べて弱く、認められないこともある。

 肝臓や脾臓腫大し、小さな黄白色の壊死斑が多数認められる。
 肺では、水腫が著しい。
 しばしば心膜液や腹水の増量、異常抱卵が出現する。

 組織学的には、うっ血した血管内に多数の菌が、肝臓や脾臓には多数の菌塊と偽好酸球浸潤を伴う多発性巣状壊死が認められる。
 十二指腸の出血巣では粘膜の上皮の剥離および多数の菌塊が認められる。

 慢性では通常、肉垂、眼窩下洞、脚や翼の関節、脚蹠、胸骨の粘液嚢などの腫脹がみられる。

 結膜や咽頭に滲出性の病変がみられ、ときには斜頸も起こる。
 気道感染の結果、気管の異常呼吸音(ラッセル)や呼吸困難が起こり、衰弱して死亡する場合もある。

診断

 疫学的診断
 採卵鶏では産卵開始後、ブロイラーでは30~50日齢での発生が多い。
 通常、発生は特定の群や鳥舎に限局されるが、終息しても再発することがある。

予防・治療・対策

 諸外国では不活化あるいは生ワクチンが使用されるが、わが国ではワクチンは実用化されていないので、一般衛生管理の徹底が最も重要である。
 法的借地の対象となる本病と診断された場合、発生群はただちに殺・焼却処分によって淘汰し、飼育場を十分消毒するなど、法に基づく借地をとらなければならない。

 その他の発生例でも同様の借地をとるのがよい。
 これまでの国内で分離された菌株の多くは抗菌剤に感受性が強いが、これらによる治療は保菌鳥をつくり、本病を広げる恐れがある。